国立遺伝学研究所生命軌道研究ユニット

生命を、生きたままに理解する。

遺伝子や環境がそろっていても、生命は同じ経過をたどりません。私たちは生きた細胞や胚を追い続け、その違いが生まれ、個性となり、やがて運命に至る分子の過程を調べています。この過程の理解を一つ一つの生命の理解につなげることで、Individual Biologyという新しい研究分野の開拓を目指します。

研究対象について
卵、幼虫、さなぎ、蝶へと続く一つの生命を表した線画。Individual Biology — Understanding One Life as It Lives
Individual Biology Unit · Torii LabMISHIMA, JAPAN
01

Life trajectories研究対象:生命軌道

生命軌道:生命ごとに固有の時間変化

一つの生命が分子状態を変えながら、その後の個性や運命に至るまでの経過を、私たちは「生命軌道」と呼びます。

これまでの私たちの研究から、将来の運命に結びつく分子状態の変化が、細胞や胚ごとに固有であることがわかってきました。生命の個性は、最終的な形質だけでなく、そこに至る分子レベルの軌道にも現れます。

個々の生命軌道を比べ、分子レベルの違いがどのように連鎖し、個性や運命につながるのかを調べます。その共通性と多様性から、生命が個性を獲得し、集団として多様性が生じる仕組みを探ります。

共通する発生過程から、活発さの異なる魚の一生へと分かれる生命軌道の模式図
図:自発的個性化

生まれた直後から活発さに差があり、その差が生涯にわたって持続します。

この個性は、どこから生じるのでしょうか?

02

Our approachどう調べるか

生きた細胞・胚の分子動態を測る

図を左右にスワイプ、または01〜03をタップ

01 / 03
SNAPSHOTS破壊的な測定では、同じ細胞を1時点しか測れない。単一細胞RNA-seqではすべてのデータが異なる細胞に由来し、次の時点の細胞と過去の細胞は別のものです。
そのため時系列データであっても生命としての連続性は記録されておらず、実際の軌道は不明です。
分子状態● t0◆ t1■ t2▲ t3
t0t1t2t3?????????個性・運命

01破壊的測定の限界

細胞を壊すと、その後を追跡できない。

分子生物学の多くの手法では、測定のために細胞を破壊します。細胞内分子を網羅的に調べるオミクスでも同様で、近年普及した単一細胞RNA-seqもまた細胞の破壊が前提となっています。そのため、細胞の状態を詳しく知ることができても、その細胞が次にどう変わるかは観察できません。異なる細胞の測定結果を時間方向に並べても、過去・現在・未来の変化を実際に生きた細胞がどのようにたどったのかは直接知ることができないのです。

Live-cell transcriptomics

細胞を生かしたまま少量のRNAを採取する手法です。微細なガラス針を用いた動電学的方法により、細胞を破壊せずに分子状態を測定できます。

SAMPLING MECHANISM

微細なガラス針と電気で、RNAを採取する

01電気パルスで膜に孔を開ける
細胞電気パルスガラス針膜の孔
電気穿孔により、ガラス針の先端付近の細胞膜を一時的に透過させます。
02RNAをガラス針へ取り込む
細胞+RNA
電気泳動などを利用して、生きた細胞から少量のRNAを採取します。
03針を離し、RNAを回収する
細胞回収液膜の再封鎖
回収液をRNA-seqで解析します。細胞膜の孔は自然に修復されます。
03

Research focus現在の研究

取り組んでいる研究

応用APPLICATION

IVFにおける受胎率診断手法の確立

胚を生かしたまま分子状態を調べ、将来的な胚性致死を予測する方法を探ります。牛受精卵の診断や体外受精(IVF)への応用を見据えた基礎研究を進めます。

工学ENGINEERING

多胚サンプリング手法の開発

多数の胚から同時にRNAを採取する計測系を開発します。微細加工や自動制御を組み合わせ、計測の効率と再現性を高めた大規模計測を実現します。

情報学INFORMATICS

生きた分子動態の学習による細胞運命の高精度予測

生きた細胞から得られる分子動態と運命のつながりを学習し、実際の細胞の生命軌道を予測するツールを開発します。生きた連続性を学習させることで、細胞動態のより高精度な予測の実現を目指します。

生命科学LIFE SCIENCE

自発的個性化の解明

遺伝的背景や飼育条件がそろっていても生じる行動の個性は、いつ生まれ、どのように持続するのでしょうか。線虫の胚をLive-cell Transcriptomicsで追跡し、初期の分子状態の違いが、その後の発生や行動にどう関わるかを調べることで、遺伝と環境に次ぐ第3の生物多様性創出機構の解明を目指します。

04

Selected work代表的な論文

Publications

論文一覧
Preprint

生きた細胞・胚の分子状態を、同じ生命の中で時系列に捉えました。

Live-organismal Transcriptomics

Torii K., Watanabe K., Gordon A. M., et al.Research Square

プレプリントは査読前の公開原稿です。最新の改訂状況は原稿・論文の掲載先をご覧ください。

05

Peopleメンバー

鳥井孝太郎

Principal investigator

鳥井 孝太郎 Kotaro Torii, Ph.D.

特任准教授 / Project Associate Professor

生きた細胞や胚から、繰り返しRNAを採取する技術を開発してきました。計測技術の開発と時系列データの解析を通じて、生命ごとの分子状態の変化と、その後の個性や運命との関係を研究しています。

略歴

2026 —
国立遺伝学研究所 統合研究コア 特任准教授
2024 —
JST さきがけ研究員(生命力の二面性)
2025 — 2026
理化学研究所 TRIP-AGIS 研究員
2020 — 2025
理化学研究所 特別研究員
開拓研究本部(2020–2024)、環境資源科学研究センター(2024–2025)
2020
京都大学大学院 生命科学研究科 博士課程修了
博士(生命科学)
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Join & Contact研究室への参加・お問い合わせ

興味を持ってくださった方へ

生命科学の問いを、工学の技術と情報学の方法で調べる研究室です。実験に加えて、装置開発やデータ解析にも関心のある方を歓迎します。私自身、植物科学の出身です。最初から身につけている必要は全くありません。大学院進学、研究室見学、共同研究に興味のある方は、お気軽にご相談ください。

研究を通じて学べること

  • 微細加工・装置開発と計測制御
  • RNA-seqの実験設計とデータ解析
  • 画像・動画からの表現型の定量
  • 時系列解析・機械学習と遺伝子制御の推定

お問い合わせ

kotaro.torii@nig.ac.jp
国立遺伝学研究所 統合研究コア 生命軌道研究ユニット
〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
W棟(東側) W307
055-981-5837
顕微鏡と自作ステージ、計測制御系を組み合わせた観察装置

装置をつくり、測定し、データを解析する

顕微鏡や採取装置を組み合わせ、計測を制御します。得られたRNA-seqデータや動画を解析し、分子状態と発生・行動を対応づけます。実験から解析までを通して、研究の問いに必要な手法を開発する経験ができます。

Newsお知らせ

国立遺伝学研究所で、生命軌道研究ユニットをスタートしました。