01破壊的測定の限界
細胞を壊すと、その後を追跡できない。
分子生物学の多くの手法では、測定のために細胞を破壊します。細胞内分子を網羅的に調べるオミクスでも同様で、近年普及した単一細胞RNA-seqもまた細胞の破壊が前提となっています。そのため、細胞の状態を詳しく知ることができても、その細胞が次にどう変わるかは観察できません。異なる細胞の測定結果を時間方向に並べても、過去・現在・未来の変化を実際に生きた細胞がどのようにたどったのかは直接知ることができないのです。

国立遺伝学研究所生命軌道研究ユニット
遺伝子や環境がそろっていても、生命は同じ経過をたどりません。私たちは生きた細胞や胚を追い続け、その違いが生まれ、個性となり、やがて運命に至る分子の過程を調べています。この過程の理解を一つ一つの生命の理解につなげることで、Individual Biologyという新しい研究分野の開拓を目指します。

Life trajectories研究対象:生命軌道
一つの生命が分子状態を変えながら、その後の個性や運命に至るまでの経過を、私たちは「生命軌道」と呼びます。
これまでの私たちの研究から、将来の運命に結びつく分子状態の変化が、細胞や胚ごとに固有であることがわかってきました。生命の個性は、最終的な形質だけでなく、そこに至る分子レベルの軌道にも現れます。
個々の生命軌道を比べ、分子レベルの違いがどのように連鎖し、個性や運命につながるのかを調べます。その共通性と多様性から、生命が個性を獲得し、集団として多様性が生じる仕組みを探ります。

生まれた直後から活発さに差があり、その差が生涯にわたって持続します。
この個性は、どこから生じるのでしょうか?
Our approachどう調べるか
01破壊的測定の限界
分子生物学の多くの手法では、測定のために細胞を破壊します。細胞内分子を網羅的に調べるオミクスでも同様で、近年普及した単一細胞RNA-seqもまた細胞の破壊が前提となっています。そのため、細胞の状態を詳しく知ることができても、その細胞が次にどう変わるかは観察できません。異なる細胞の測定結果を時間方向に並べても、過去・現在・未来の変化を実際に生きた細胞がどのようにたどったのかは直接知ることができないのです。
細胞を生かしたまま少量のRNAを採取する手法です。微細なガラス針を用いた動電学的方法により、細胞を破壊せずに分子状態を測定できます。
SAMPLING MECHANISM
EXPERIMENT 01
EXPERIMENT 02
EXPERIMENT 03
Research focus現在の研究
胚を生かしたまま分子状態を調べ、将来的な胚性致死を予測する方法を探ります。牛受精卵の診断や体外受精(IVF)への応用を見据えた基礎研究を進めます。
多数の胚から同時にRNAを採取する計測系を開発します。微細加工や自動制御を組み合わせ、計測の効率と再現性を高めた大規模計測を実現します。
生きた細胞から得られる分子動態と運命のつながりを学習し、実際の細胞の生命軌道を予測するツールを開発します。生きた連続性を学習させることで、細胞動態のより高精度な予測の実現を目指します。
遺伝的背景や飼育条件がそろっていても生じる行動の個性は、いつ生まれ、どのように持続するのでしょうか。線虫の胚をLive-cell Transcriptomicsで追跡し、初期の分子状態の違いが、その後の発生や行動にどう関わるかを調べることで、遺伝と環境に次ぐ第3の生物多様性創出機構の解明を目指します。
Selected work代表的な論文
生きた細胞・胚の分子状態を、同じ生命の中で時系列に捉えました。
Torii K., Watanabe K., Gordon A. M., et al.Research Square
植物細胞の分化における概日時計の役割を、時系列の一細胞解析で調べました。
Torii K., Inoue K., Bekki K., et al.Cell Reports 40, 111059
植物の細胞周期に沿った遺伝子発現の変化と、オーキシンの動態を調べました。
Torii K., Kubota A., Araki T., Endo M.Plant and Cell Physiology 61, 243–254
プレプリントは査読前の公開原稿です。最新の改訂状況は原稿・論文の掲載先をご覧ください。
Peopleメンバー

Principal investigator
特任准教授 / Project Associate Professor
Join & Contact研究室への参加・お問い合わせ
生命科学の問いを、工学の技術と情報学の方法で調べる研究室です。実験に加えて、装置開発やデータ解析にも関心のある方を歓迎します。私自身、植物科学の出身です。最初から身につけている必要は全くありません。大学院進学、研究室見学、共同研究に興味のある方は、お気軽にご相談ください。

顕微鏡や採取装置を組み合わせ、計測を制御します。得られたRNA-seqデータや動画を解析し、分子状態と発生・行動を対応づけます。実験から解析までを通して、研究の問いに必要な手法を開発する経験ができます。
Newsお知らせ
国立遺伝学研究所で、生命軌道研究ユニットをスタートしました。